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宇都宮地方裁判所 昭和53年(ワ)628号 判決

原告 田村和夫

〈ほか二名〉

右三名訴訟代理人弁護士 大貫正一

同 米田軍平

原告 田村一

右訴訟代理人弁護士 大貫正一

同 太田うるおう

被告 栃木県

右代表者知事 船田譲

右訴訟代理人弁護士 長山修一郎

同 羽石大

右指定代理人 長島寿一

〈ほか六名〉

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

1  被告は、原告田村和夫に対し七五一万三八八八円、原告田村一、同田村和枝、同田村洋子に対し各四〇〇万九二五八円及び右各金員に対する昭和五三年一一月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに1につき仮執行の宣言

二  被告

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  当事者の地位

原告和夫は訴外亡田村才子(以下「才子」という。)の夫、その余の原告らは原告和夫と才子との間の子である。

被告は県道宇都宮向田線の管理者である。

2  事故の発生

才子は、昭和五三年一一月八日午前一〇時五分ごろ、自転車に乗って、宇都宮市今泉町七五二番地先の県道宇都宮向田線が国鉄東北線をくぐる地下道(以下「本件地下道」という。)のうち南側自転車道(以下「本件自転車道」という。)を東方から西方に向かって進行中に、本件自転車道の北側にこれに沿って設置されているガードレール又はその支柱に接触、転倒して頭部外傷を負い、その結果、同月一一日午前八時五二分死亡した。

3  被告の責任

(一) 本件地下道は、南北に走る国鉄東北線と交差し、その下を東西に通じる道路で、車道、自転車道、自転車歩行者道の三種に区分され、自転車道と自転車歩行者道は車道をはさんでその北側と南側にそれぞれ右の順序で設置されており、車道と自転車道とは金属性ガードレールで分離され、自転車道と自転車歩行者道との間には高低差があって両者はコンクリート壁で分離されている。

(二) 本件自転車道の構造は、東方から東北線の下部に向かって五・五一パーセントの急な下り勾配であって、左にカーブしており、しかも、有効幅員は一・五メートルと狭く、その北側に沿って設置されている金属性ガードレールの支柱が本件自転車道の側に露出したままになっている上、路面は水平ではなく凸状(かまぼこ状)となっていて、本件自転車道の南側にある幅員〇・五メートルの街渠との間にも段差があるというもので、自転車道としては余りにも危険でその本来備えるべき安全性を欠いている。

(三) 本件自転車道及び本件地下道の北側自転車道では、本件地下道の供用が開始された昭和五二年一二月二三日から本件事故が発生した昭和五三年一一月八日までの短期間に自転車事故が続発し、届出がされた事故だけでも一三件(うち死亡事故一件、傷害事故一二件)に達していた。

(四) したがって、本件自転車道には、その設置・管理に瑕疵があったというべきであり、本件事故はその設置・管理の瑕疵に起因するものであるから、被告は、国家賠償法二条一項の規定に基づき、才子及び原告らが本件事故によって被った損害を賠償すべきである。

4  損害

(一) 才子の逸失利益

才子は、昭和一一年二月一五日生まれ(死亡当時四二歳)の女子であって、原告和夫の営む建築業の経理を担当するかたわら家事育児等に従事していたものであり、本件事故がなければ満六七歳までは稼働が可能であったから、その間にあげ得た収入の現価は別紙計算書のとおり九〇四万一六六四円となる。

原告和夫は右金額の損害賠償請求権の三分の一(三〇一万三八八八円)、その余の原告らはその各九分の二(各二〇〇万九二五八円)ずつをそれぞれ相続した。

(二) 慰藉料

原告らは、才子の本件死亡事故により甚大な精神的苦痛を被った。これを慰藉するには、原告和夫につき四〇〇万円、その余の原告らにつき各二〇〇万円が相当である。

(三) 葬儀費

原告和夫は才子の葬儀のため五〇万円を支出した。

5  よって、被告に対し、原告和夫は七五一万三八八八円、その余の原告らは各四〇〇万九二五八円及び右各金員に対する本件事故による才子死亡の日の翌日である昭和五三年一一月一二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  (認否)

(一) 請求原因1の事実は認める。

(二) 同2の事実中、才子が原告主張の日時、場所において、主張の方向に自転車で走行中転倒し、主張の日時に死亡したことは認め、その余の事実は否認する。才子はガードレール又はその支柱に接触して転倒したのではなく、自らの運転の誤りによって転倒したのである。

(三) 同3(一)の事実は認める。

同3(二)の事実中、本件自転車道内部に金属性ガードレールの支柱が露出していること、本件自転車道に接してその南側に幅員〇・五メートルの街渠があることは認め、その余の事実は否認する。

同3(三)の事実中、供用開始の年月日及び事故発生件数は認めるが、その余の事実は否認する。

同3(四)の主張は争う。

(四) 同4の事実中、才子の生年月日は認めるが、その余の事実は争う。

2  (主張)

(一) 本件地下道は、道路法及び道路構造令に則って設計し、設置したものであり、構造的には次のとおり関係法令に適合している。

(1) 本件自転車道の縦断勾配について

「自転車道等の設計基準について」と題する通達(昭和四九年三月五日建設省都街発第一三号、道企発第一二号。以下「設計基準」という。)5の5―5の4によれば、「車道部に併設して自転車道……を設ける場合には、車道部の縦断勾配に準ずる……」ものとされており、本件自転車道が設けられた道路は、道路構造令三条の第四種第二級道路でその設計速度は四〇キロメートル毎時であるから、同令二〇条により、縦断勾配は七パーセントであるが、他方同条ただし書でやむを得ない場合には二パーセントを加えることができるとされているので、最大縦断勾配は九パーセントとなる。そして、本件自転車道の縦断勾配は、車道と同じく、東方から東北線の下部に向かい五・七パーセント、西方から東北線下部に向かい七・一パーセントであるから、右最大縦断勾配の範囲内である。

(2) 幅員について

設計基準4の4―1の1ただし書によれば、自転車道の幅員は〇・七五メートルまで縮小することができるとされており、また、同5の5―3によると、「縦断勾配五パーセント以上の区間……では、一車線あたり〇・二五メートル以上の拡幅をするものとする。」とされているから、本件自転車道の場合には合計一メートルの幅員があればよいところ、その幅員(ガードレール支柱の南側と街渠の北端との距離)はほぼ一メートルである。

(3) 平たん性及び段差について

本件自転車道の走行路面の平たん性は、表面舗装施工の精度プラスマイナス二・四ミリメートルが確保されており、その横断勾配は、排水のために本件地下道の中央が高く両端に向かって二パーセントの勾配がつけられてはいるが、自転車道の路面自体がかまぼこ状になっているわけではない。また、原告の主張する段差というのは、本来本件自転車道の幅員には含まれない余裕空間にすぎない街渠との間のことであるし、この段差は本件事故発生前の昭和五三年一〇月一二日に調整されており、本件事故当時は皆無であった。

(4) ガードレール等について

本件自転車道の北側に沿って設けられているガードレールは「防護柵の設置基準の改訂について」と題する通達(昭和四七年一二月一日道企発第六八号)に則って設置されており、また、事故防止を目的とするガードレールの強度を保持するため、その支柱は車道の反対側に立てざるを得ないのである。このため、ガードレールの支柱が本件自転車道の側に露出しているが、そのこと自体が本件自転車道の瑕疵というに足りる危険性をもたらしているものではない。

(二) しかも、被告は、本件自転車道の供用開始後、その安全性を保持するため、路面に乳剤及び砕石を散布してスリップを防止し、また、ガードレール等への接触を防止するためガードレールの内側二〇センチメートルの路面上に幅一五センチメートル程度の白色溶着の視線誘導線を標示し、更に、自転車通行者が加速しながら通行している実態から、「急坂注意」の標識を設置して注意を喚起する等の措置を講じた。

(三) したがって、被告には、本件自転車道の設置・管理について何ら瑕疵がないものというべきであり、本件事故は才子の自転車運転の際のハンドルやブレーキ操作の誤りによって生じたものである。

三  抗弁

仮に、本件自転車道の設置・管理についての瑕疵があり、本件事故がこれによって生じたものであるとしても、才子は速度を出し過ぎ、かつ、ブレーキ操作を誤るという重大な過失によって本件事故を招来したものであるから、過失相殺により被告は損害賠償を免ぜられるべきである。

第三証拠《省略》

理由

一  当事者の地位及び事故の発生

請求原因1の事実及び同2の事実中、才子が昭和五三年一一月八日午前一〇時五分ごろ、自転車に乗って本件自転車道を東方から西方に向かって進行中に転倒し、同月一一日午前八時五二分死亡したことは当事者間に争いがない。

そこで、才子の右転倒事故の状況についてみると、才子が右転倒事故に際し本件自転車道沿いのガードレールに接触したと認め得る証拠はなく、《証拠省略》を総合すると、本件自転車道が、東方から函体部分(国鉄東北線と本件地下道との立体交差部分)に至るまで下り勾配となっていることは、後記認定のとおりであるところ、才子は、事故の直前、自転車のハンドルの前にあるかごの中に長さ二、三十センチメートルよりもやや大きめのショルダーバックを入れて、その下り勾配部分のほぼ中央部付近を、傾斜による加速がつくのにまかせたまま進行していたこと、ところが、才子が、勾配を下り終わって道路がほぼ水平になる函体部分の手前のあたりに近づいた時、急にハンドルが左右にぶれ、同時に才子が左手をハンドルから離して前のほうに伸ばし、ショルダーバックを押さえようとするような動作をして右手だけの片手運転をしたこと、その直後、才子の体はハンドルを跳び越えるようにして前のめりに飛び出し、函体部分入口から約五メートル内部に入った地点で路上に転倒したことを認めることができ、他に右認定に反する証拠はない。

二  本件自転車道の構造及び管理の状況

請求の原因3(一)の事実は当事者間に争いがなく、また、《証拠省略》を総合すれば、次の事実が認められる。すなわち、

1  県道宇都宮向田線は、昭和四六年一〇月一八日建設大臣により認可された都市計画事業に係るものとして、昭和四八年二月に工事に着工して設置された設計速度四〇キロメートル毎時の第四種第二級道路である。本件地下道は、国鉄東北線をくぐる函体部分に至るまで東側からも西側からも同部分に向かって下り坂となっていて、東側部分は長さ一三〇メートル余に及んで縦断勾配は五・五一パーセント、西側部分は長さ一〇〇メートル余に及んで縦断勾配は七・一パーセントである。本件地下道を東方から函体部分に向かうと、下り坂の中途部分において緩やかながら左にカーブしているが、見通しはよい。

また、本件地下道の中央部分の車道は三車線となっていてその両側の自転車道にはそれぞれ幅員〇・五メートルの街渠がある。本件自転車道の南側に設けられている自転車歩行者道は、幅員二・二五メートルで、その勾配部分には、中央部分に歩行者用の緩やかな階段が設けられ、その両側端部分はスロープ状になっていて、自転車通行者は自転車を降りてスロープ上の自転車を押しながら自らは階段を歩くようになっており、本件自転車道よりも高い位置に設置されているため、勾配は緩やかとなっているものである。

2  本件自転車道は、本件地下道の車道部分に沿うように設けられているため、その縦断勾配は車道と同じであり、横断勾配は、排水をよくするために本件地下道の中央部から南に向かって設けられている二パーセントの下り勾配がそのまま本件自転車道にまで及んでおり、その南側の街渠部分の一〇パーセントの下り勾配に続いている。本件自転車道の幅員(ガードレールの支柱の南端から街渠の北端線に垂直線を引いた距離)は〇・九七五メートルから一・〇六メートルである。本件自転車道沿いの街渠は、所々に幅四〇センチメートル、長さ五〇センチメートルの集水桝が設けられているほかは一面にふたがされ、表面上は本件自転車道沿いに幾分線状の境めがあるものの平たんで本件自転車道の幅員をその分だけ広く感じさせるような状況となっていた。

なお、本件自転車道は、かねてから東方から西方へ向けての一方通行となっている。

3  本件自転車道の供用開始は昭和五二年一二月二三日であったが、供用開始後、本件自転車道を利用する者の通行形態としては、函体部分に至る下り勾配をスピードを落とさないまま、傾斜による加速度がつくのにまかせて進行し、このスピードを利用して一気に函体部分の出口から続く上り勾配を登りきろうとする者が多く(下り勾配を自ら加速して進行する者さえあった。)、その傾斜による加速度は、ブレーキをかけない場合には平均三六・五キロメートル毎時にも達するほどであり、そのためスピードの出しすぎによるハンドル操作の誤りを主たる原因として、供用開始後本件事故が発生するまでの間に、本件自転車道と北側自転車道を併せて一三件の自転車の転倒による傷害事故(うち一件の被害者は本件事故後に至って死亡)が発生した。これらの事故を起こした者の年齢は六歳から五五歳までとまちまちであり、事故の発生場所は、下り勾配を下りきって、函体部分に入った所に集中していた。

このように事故が多発している状況から、被告は、昭和五三年七月七日と同年一〇月一二日の二回にわたり本件自転車道の安全措置について関係機関と協議し、これに基づき同年七月下旬から八月上旬にかけて本件自転車道の入口付近の二箇所に順次「急坂注意」の標識を設置し、路面に厚さ五ないし二五ミリメートルの砕石と乳剤を散布するスリップ防止工事をし、更に、同年一〇月一五日には、ガードレールの支柱の南端から二〇センチメートルのところに白色溶着による幅一五センチメートルの視線誘導線を設けた。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

三  本件自転車道の設置・管理の瑕疵について

1  以上の事実をもとに、本件自転車道の設置・管理の瑕疵の有無について判断するわけであるが、国家賠償法二条一項にいう「営造物の設置又は管理に瑕疵があった」とみ得るかどうかは、当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮してそれが有すべき安全性の有無を個別的具体的に判断すべきものである。これを本件自転車道のように、自転車に乗って通行するのにはいったん勾配を下ってまた登ることを余儀なくされる構造になっている場合について考えると、自転車利用者が下り勾配において相当程度の加速をし、これを利用して上り勾配を一気に登ろうとすることはとかく行われがちなことであり、このような通行形態も、それが合理的な一定限度のスピードである限り、社会通念上是認され得るものであるから、そのような道路の設置・管理者は当該道路につき、このような通行形態があることを予測した上、これに対処するための措置を講じなければならないというべきである。しかしながら、他方で、その利用者においても、自転車はブレーキの誤操作等によって容易に転倒するものであるから、その道路の状況及び利用者の技量に応じて早めに速度を緩める等細心の注意を払って運転すべきこともまた当然であって、もとより道路設置・管理者の採るべき措置の内容も、このような常識的な利用方法を前提とした安全性の保持で足りるものであって、自転車利用者が通常の注意義務を尽くすことなく無謀な走行に及ぶことまでも予測し、このような通行形態に対してまでも十分な安全性を確保しなければ、前記法条にいう瑕疵があったとすべきものではない。また、道路の設置・管理の瑕疵の有無を考えるに当たっては、その設置・管理につき場所的環境等の諸事情による制約があることもまたやむを得ないこととして考慮の対象としなければならない。

2  本件自転車道についてみるに、まず、これが関係法令上自転車道として適合するものかどうかについて、道路構造令及び設計基準の規定を参斟して考えると、幅員については、設計基準上もその4の4―1の1による最低限度の〇・七五メートルに、同5の5―3による縦断勾配五パーセント以上の場合に必要な〇・二五メートルの拡幅をした一メートルを確保すれば足りるものであるし、また、縦断勾配については、同5の5―5の1により、原則として五パーセントとされているが、立体交差についてはこの限りでないとされ、また、同5の5―5の4で、車道に併設する場合には車道部の縦断勾配に準ずるものとされている(ただし、右基準によれば、五パーセント以上となる場合には、別にルートを考慮することが望ましいものとされており、五パーセント以上の縦断勾配をとることは、あくまで例外的なものとして許容されている。)ところから、結局道路構造令二〇条の規定により本件地下道についての最大縦断勾配は九パーセントまで許容されることになり、更に、横断勾配は、道路構造令二四条で二パーセント以下とされているということができる。したがって、本件自転車道は、右各法規上の許容限度には最低限度ながら合致しているものということができる。

のみならず、《証拠省略》によれば、本件地下道が国鉄東北線をくぐる形でこれと交差するように設置されることは、都市計画事業の一環として昭和三五年に既に計画されていたものであるところ、本件地下道の西端では県道上阿久津宇都宮線が県道宇都宮向田線を南北に横切って交差し、本件地下道の東端一帯では駅東土地区画整理事業が施行中で道路等も完成していた関係から、本件地下道の勾配を緩和するためにその両端を函体部分から更に遠くにして右の交差点等における県道宇都宮向田線の高さだけを低くすることは不可能であり、また、他方で国鉄東北線との立体交差をさせるためには法規上必要な深さを確保する必要もあったことから、本件地下道の車道の縦断勾配は、先に認定したとおりのものとせざるを得なかったこと、しかも、その幅員についても、昭和四六年には二〇メートルとされ、当初は自動車と自転車の混合交通四車線とするように設計していたところ、着工時には、自動車、自転車の交通量が当初の見込みよりもかなり増大することが予想される状況となったので、急きょ、車道を三車線にしてその両側に自転車道を設けることにしたものであるが、前記のような土地区画整理事業の関係から、本件地下道全体の幅員を広げることができず、やむを得ず自転車道の幅員を一メートルとせざるを得なかったことが認められる。しかも、このようにして完成した本件自転車道の構造は前記二の1及び2のとおりであって、その南側には隣接してより安全なスロープ状の自転車歩行者道が併設されているのであり、また、その完成後においても安全措置として同二3のとおりの施策が講じられているのである。

3  そうすると、本件自転車道は、その幅員や縦断勾配が関係法令の最低の許容限度にようやく合致する程度のものであり、いずれにしても狭くて急な坂道であることを考慮しても、自転車利用者は、自己の年齢や身体の状況、更には自転車運転の技量等に応じ、本件自転車道を通行するか、自転車歩行者道を通行するかの選択の余地もあるし、この点はしばらくおくとしても、本件自転車道を通行する場合には、その幅員や勾配がどのような状況であるかは一見して明らかなことであるから、自転車を扱う者であれば当然に払わなければならない注意を払いながら、ブレーキにより適度に速度を調節し、視線誘導線に沿ってハンドルを操作すれば、本件自転車道を安全に通過することは十分に可能であるといわなければならない。

したがって、本件自転車道は、自転車利用者が右のような通常の注意をもって進行すれば安全にこれを通過し得るものであり、先に認定したとおり本件自転車道において自転車の転倒事故が過去に発生していたことを考慮しても、自転車道として通常有すべき安全性を欠いていたということはできず、その設置・管理に瑕疵があったものと認めることはできない。

四  結論

以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥平守男 裁判官 赤塚信雄 星野隆宏)

〈以下省略〉

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